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コラム

2025.09.01

地下工事の守り神!知られざる「山留め」の世界 全5回

第5回:山留工事と安全・周辺環境への配慮

このコラムシリーズもいよいよ最終回です。今回は、山留め工事を進める上で非常に大切な、安全対策や周辺環境への配慮についてお話しします。

それは第1回でも触れたように、地盤条件環境条件を十分に調査し考慮することが不可欠です。

  • 地盤条件の調査:地下水位の状況(地下水調査)や、土の種類や強度(土質調査)は、山留め壁にかかる圧力や、壁を支える地盤の抵抗力に大きく影響します。土質定数(土の特性を示す数値)の設定は、設計の根幹に関わるため、特に慎重に行う必要があります。
  • 環境条件の調査:工事現場の近くにどんな建物があるか(近接構造物調査)、ガス管や水道管などの地下に埋まっているものがないか(地下埋設物調査)、そして工事を行う際の制約(施工条件の調査) なども、工法選択や施工計画に大きく影響します。過去には、こうした調査が不十分だったために、ガス管破損事故や、近接する建物が傾いたり沈んだりする事故も発生しています。

そして特に重要な環境条件の一つが、建設作業に伴う騒音や振動です。都市部や住宅地の近くでは、自治体の条例などで騒音・振動に厳しい規制が設けられている場合があります。

  • 騒音や振動の大きさに関する規制(敷地境界線で85デシベル、75デシベルを超えないなど)。
  • 作業が可能な時間帯の規制(夜間や早朝は作業できないなど)。
  • 連続して作業できる期間の規制(特定の作業は連続6日を超えて行えないなど)。
  • 休日の作業に関する規制(日曜・祝日は作業できないなど)。

これらの規制は、使用する建設機械の種類(くい打機、ブレーカー、ブルドーザーなど) や、工事を行う場所の区域区分(住居系地域か商業・工業地域かなど)によって異なります。振動や騒音を大きく伴う工法(バイブロハンマなど)は、周辺環境によっては選択が難しい場合があります。

次に、掘削作業中に発生する可能性のある地盤のトラブルとして、掘削底面の安定性の問題があります。

  • ボイリング:砂質土地盤で、掘削面側の地下水位が背面側より著しく低い場合に、水圧差によって砂粒子が噴き上がる現象。対策としては、地下水位低下工法(ディープウェル、ウェルポイント)や、底盤を改良して止水する工法などがあります。水が流れている状態での薬液注入は効果が低いことがあります。
  • パイピング:土の中を水が浸透する際に、水の通り道(水みち)ができて土粒子が流出する現象。ボイリングと同様に止水や地下水位低下が対策となります。
  • ヒービング:粘性土地盤で、土留め壁背面の土が掘削面側に押し出されて、掘削底面が隆起する現象。
  • 盤ぶくれ(ばんぶくれ):難透水層の下にある被圧地下水層の圧力によって、掘削底面が持ち上がる現象。

これらのトラブルは、事前の地盤調査と適切な対策工法の選定、そして施工中の丁寧な管理によって防ぐことができます。

さらに、山留め工事は周辺の建物などに影響を与える可能性もあります。地下水位の低下による地盤沈下(特に粘性土層の圧密沈下) や、土留め壁(鋼杭や鋼矢板)を引き抜く際に地盤が緩んで起こる沈下、そして掘削によって地盤にかかっていた圧力が解放されることによるリバウンド(底面がわずかに膨らむ現象) などです。近接構造物への影響を検討する際には、事前に近接程度の判定を行い、必要に応じて計測器を設置して工事中の地盤や建物の動きを継続的に監視する「計測管理(情報化施工)」を行うことも望ましいとされています。

山留め工事は、地下空間を安全に作り出すための、言わば縁の下の力持ちです。 地盤や周辺環境は常に変化するため、計画段階での入念な調査と検討、そして施工中の柔軟な対応と丁寧な管理が非常に重要になります。

サンヨーコーポレーションは、これらの複雑な条件を考慮した上で、最適な山留め工法を選定し、安全・確実な施工を行うことを最大の使命としています。今回のコラムで、山留め工事が皆さんの安全な暮らしを守るためにどれほど大切か、少しでもご理解いただけたら幸いです。地下工事や山留めに関するご質問、ご要望がありましたら、どうぞお気軽にサンヨーコーポレーションにご連絡ください。