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コラム
場所打ち杭ってどんな杭?~建物を支える見えない巨人~ 全5回

【連載コラム 第4回】杭を支える地盤の「顔」~不具合を防ぐ地盤調査と計画の重要性~
ウェブサイトをご覧の皆様、こんにちは!
前回は、場所打ち杭のコンクリート打設における奥深い秘密に迫りました。そして今回は、杭がその力を最大限に発揮するために不可欠な、**「地盤」**そのものに目を向けます。不具合の多くは、地盤に関する適切な計画や調査の不足に起因することが少なくありません。
1. 「見えない巨人」を支える「支持層」の明確化
杭は、建物の重みを**「支持層」と呼ばれる強固な地盤で支えます。この支持層は、建物の規模や地盤条件、採用工法によってその特性が異なるため、設計者は明確に定義する**必要があります。定義には、土質、層厚、N値など、支持力性能に影響する地盤特性を表す指標を選定し、必要に応じて支持層下部の地層の特性も加えることが基本です。
地盤調査の初期段階では情報が不足しがちですが、調査の進行に応じて定義を見直し、最終的に実際の地盤(実地盤)と整合させることが重要です。例えば、東京の低地に見られるTog層や、大阪の薄い砂質土層を支持層とする場合、支持層が必ずしも特定の地層境界と一致しないこと、不陸や傾斜、不連続性があること、そして下部層の特性も考慮することなど、様々な留意点が存在します。
2. 不具合を回避する「地盤調査計画」のポイント
支持層の条件を正確に把握し、不具合を未然に防ぐためには、計画段階での地盤調査が極めて重要です。そして地盤調査計画の基本は、定義された支持層条件に関わる地盤特性を、各杭位置で直接確認するか、周辺の調査結果から正確に推定できるように調査を計画することにあります。
調査点数や間隔は、支持層が水平成層条件に近いか、それとも不陸・傾斜、層厚変化、不連続性が大きいかによって大きく異なります。特に、丘陵地の切盛造成地盤、埋没谷、互層地盤、風化度の異なる岩・土、地殻変動の影響を受けた地盤など、支持層が複雑に変化する可能性がある場所では、多点調査が必要となります。また、薄い中間層を支持層とする場合は、その連続性や層厚変化を確認するため、密な間隔での調査が不可欠です。
地盤の特性は予測が難しい場合が多いため、地盤調査を一度にまとめて実施するのではなく、数回に分け、段階的に進めることで、支持層の変化に応じて柔軟に対応(調査ポイントの追加・変更、支持層条件の見直し等)できる計画とすることが重要です。
3. 計画段階で注意すべき「不具合の生じやすい地盤条件」
地盤は、その特性によって杭の不具合に直結する様々なリスクを抱えています。計画段階で特に注意すべき地盤条件と、その対策は以下の通りです。
• 自然地盤の注意点:
◦ 巨礫・玉石が出現する地盤:掘削不能や施工性低下のリスクがあるため、長尺ケーシングを用いた補助工法やオールケーシング工法への変更などを検討します。
◦ 硬質な土・岩が出現する地盤:同様に掘削不能のリスクがあり、施工法の見直しが必要です。
◦ 帯水層が複数ある地盤:安定液の液圧で孔壁を保持するため、各帯水層の地下水位を把握し、安定液の水位を地下水位より1.5m以上高く保つ計画が基本です。地下水位には季節変動や潮汐の影響もあるため注意が必要です。
◦ 支持層の不陸・傾斜、層厚変化や不連続性の程度が大きい地盤:孔曲がり、高止まり、そして建物不同沈下・傾斜に直結する支持層未到達のリスクがあります。計画段階での密な地盤調査と、特性に応じた工法選定・杭設計が不可欠です。
◦ 細砂(特に微細砂)が厚く堆積する地盤:安定液中に浮遊する細砂が沈降に時間を要し、コンクリートの品質不良や充填不良(杭頭不良)を引き起こす恐れがあります。このような場合は、1次孔底処理過程での良液置換(水中ポンプなどで砂分を多く含んだ安定液を排除し、良質な安定液に置換すること)が最も有効です。
◦ 緩い砂や礫などの崩壊しやすい土が堆積する地盤:ケーシング建て込み時の先行掘りは避け、ケーシング裏側と地盤の間に空隙が生じないよう注意が必要です。空隙部にコンクリートが回り込むと、杭頭形状不良や品質不良を引き起こす可能性があります。
• 人工改変地盤の注意点:
◦ 丘陵地の切盛造成地盤:支持層に大きな不陸・傾斜があるケースが多く、自然地盤と同様に密な地盤調査と特性に応じた設計が重要です。
◦ セメント・生石灰で改良された地盤:改良地盤中の成分が安定液を劣化(ゲル化、比重や粘性の増大)させ、所期の性能を満足しなくなることがあります。このような地盤では、CMCを主材料とするポリマー系安定液の採用や、長尺ケーシングの使用を事前に検討します。
◦ 締固め砂杭工法で改良された地盤:場所打ち杭と砂杭が干渉すると、掘削時に孔壁崩壊や孔曲がりを引き起こす可能性があります。砂杭が干渉する杭には長尺ケーシングを用いるか、砂杭を杭に干渉しないように配置する(離隔距離50cm以上が目安)などの対策が必要です。
◦ 既存基礎・地下躯体解体後に埋戻された地盤:緩く埋戻された地盤では、掘削時に孔壁崩壊が生じやすいため、埋戻し部の下端までケーシングを入れるか、流動化処理土などの改良土で埋め戻すことが基本です。また、ケーシング建て込み時の先行掘りは避けるべきです。
◦ 既存杭撤去後に埋戻された地盤:埋戻し部と新設杭が干渉する場合、埋戻し部の固化不良による孔曲がりや杭形状不良が生じるリスクがあります。特に「部分ラップ」や「ラップしないが直近」の干渉度合に注意が必要で、長尺ケーシングの利用や、オールケーシング工法への変更、余裕を持たせた設計が求められます。また、**既存杭撤去・埋戻し工事の記録(杭種、杭径、杭長、埋戻し方法、品質基準など)**を新設杭の施工者に引き継ぐことが極めて重要です。
まとめ
地盤の特性を正確に把握し、その情報を設計・施工計画に適切に反映させることは、場所打ち杭の品質確保において最も基本的ながら、極めて重要なステップです。事前の徹底した地盤調査と、それに基づく計画が、安心・安全な建物づくりを支えるとサンヨーコーポレーションは考えております。