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コラム
場所打ち杭ってどんな杭?~建物を支える見えない巨人~ 全5回

【連載コラム 第3回】コンクリート打設の秘密~流れるコンクリートが杭になるまで~
サンヨーコーポレーションのウェブサイトをご覧の皆様、こんにちは!
前回は、場所打ち杭の孔壁を守る「魔法の液体」こと安定液についてお話ししました。今回は、いよいよ杭の主役となるコンクリートに焦点を当て、その流動性や打設方法、そして杭として地中で固まるまでの秘密を探っていきたいと思います。
1. コンクリートは「キャベツの玉」のように広がる?~打上がり挙動の謎~
場所打ち杭のコンクリート打設には、トレミー管という特殊な管を使用し、その先端をコンクリート中に常に挿入した状態でコンクリートを流し込みます。そして初期の知見では、トレミー管から吐出されたコンクリートは**「古いコンクリートを押し広げ、あたかもキャベツの玉が成長するような形で広がっていく」**と想像されていました。また、劣化したコンクリートは後に打設される良質なコンクリートによって上方へ押し上げられ、余盛り部分を構成すると考えられていました。
しかし、その後の調査や実験により、必ずしもそうではないことが分かってきました。現在の知見では、トレミー管から吐出したコンクリートは、管に沿って上方に流動し、コンクリート表面に達して外側に覆い被さるように広がると推定されています。この挙動は、安定液中に常に新しいコンクリートが接するため、コンクリートの劣化や、安定液中の成分をコンクリートに巻き込むリスクがあることを示唆しています。
2. スランプと「トウモロコシ現象」~流動性が杭の品質を左右する~
コンクリートはトレミー管から先行打設されたコンクリートを押し広げるように、鉄筋かごの外側へと流れていきます。そのため、コンクリートの流動性が悪いと鉄筋かごの外側まで十分に到達できないまま打ち上がってしまい、いわゆる「トウモロコシ現象」と呼ばれる充填不良を引き起こす可能性が高くなります。さらに、流動性が悪いと鉄筋かごの内側と外側でコンクリート天端に高低差が生じ、余盛り部分を打設する際にスライムを挟み込み、杭頭不良に至ることもあります。
さらに、ある打設実験ではスランプ18cmで指定したコンクリートで著しい充填不良が見られた一方、同じ配筋条件でもスランプ21cmを指定したコンクリートでは不具合が見られなかった事例があります。近年の杭は高強度化や大径化が進み、鉄筋の過密化の傾向もあるため、「コンクリートの流動性の低下」という不具合要因を事前に一つでも排除しておくことが必須であり、計画段階でコンクリートのスランプを21cmとすることを推奨しています。
また、コンクリートはプラントからの運搬や打設までの待機時間が長くなると、**スランプロス(流動性の低下)が生じます。流動性の低下は、細骨材率や混和剤の種類、外気温など様々な要因に影響されるため、プラントごとの特性を把握するための経時変化試験(スランプロス試験)**を事前に実施し、必要に応じて遅延型の混和剤を用いるなどの対策が重要です。
3. トレミー管の「巧みな操作」~スムーズな打設のために~
トレミー管の操作も、コンクリートの品質に大きく影響します。コンクリート中へのトレミー管の挿入長さが長すぎると、先端からの吐出時の抵抗が大きくなり、コンクリートの流動性を確保しにくくなります。特に、杭頭部が浅い場合はコンクリートの打設圧が小さいため、挿入長さが長いと流動性低下につながる可能性が高まります。
このため、適切な挿入長さの管理が求められます。具体的には、杭天端付近では2m以上4m以下、それ以外では2m以上8m以下で管理することが推奨されています。コンクリートの打設量と打上がり高さに応じて、ミキサー車の入れ替え時にトレミー管の切断・調整を行う**「継ぎ計画」**を立て、コンクリートの打上がりごとの挿入長さを確認することが重要です。
さらに、コンクリート打設中は鉄筋かごの浮き上がりを防ぐために、天端を常時監視し、特に打設初期の速度を管理することも重要なポイントです。
4. 「余盛り」で品質を確保する~見えない部分の配慮~
コンクリートの流動性や鉄筋のあき寸法の違いにより、打設されたコンクリートの中央部と外周部で天端に高低差(α値)が生じることがあります。この高低差は杭径が大きいほど、コンクリートの呼び強度が高いほど、また流動性が小さいほど大きくなり、場合によっては300mm~500mmに達することもあります。
中央部のみの検測結果で余盛り高さを決定すると、外周部が脆弱な杭頭が出来上がってしまう不具合が生じる可能性があるため、余盛り高さは外周部の検測結果で決定することが原則とされています。
まとめ
場所打ちコンクリート杭の品質は、コンクリートそのものの流動性はもちろん、それを適切に打設するためのトレミー管の管理、そして打設後の状況を考慮した余盛り計画など、多岐にわたる繊細な管理によって初めて確保されます。サンヨーコーポレーションでは、これらのポイントを熟知し、高品質な杭の施工に努めています。
次回予告: 次回、第4回では、杭を支える「地盤」そのものに焦点を当て、不具合を防ぐための地盤調査と計画の重要性について深掘りします。どうぞお楽しみに!