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コラム

2025.10.15

場所打ち杭ってどんな杭?~建物を支える見えない巨人~ 全5回

【連載コラム 第2回】安定液ってなんだろう?~杭の穴を守る魔法の液体~

ウェブサイトをご覧の皆様、こんにちは!

前回は、建物を支える**「見えない巨人」こと場所打ち杭**についてご紹介しました。

それは、地中に深く埋められ、建物の重みをしっかりと支えるこの杭ですが、一体どのようにして地面に「穴」を掘り、頑丈な杭を造り上げるのでしょうか?

今回は、その秘密の鍵を握る**「安定液(あんていえき)」という、まさに杭の穴を守る「魔法の液体」**にスポットを当てて、楽しく分かりやすくお話ししていきたいと思います。

杭の穴を守る「魔法の液体」安定液とは?

場所打ちコンクリート杭を造るには、まず巨大なドリルで地面に杭の形に合わせた大きな穴を掘ります。しかし、掘ったそばから穴の壁が崩れてしまっては困りますよね?そこで登場するのが「安定液」です。

安定液は、主にベントナイトや**CMC(セルロースエーテル)**といった特殊な材料を水に混ぜて作られる液体です。この液体が杭の穴(孔壁)を物理的、化学的に保護し、コンクリートが打ち込まれるまでの間、穴が崩れないように守る役割を担っているのです。まるで、デリケートなものを優しく包み込むラッピング材のような存在ですね。

安定液の3つの「魔法の力」

安定液には、場所打ち杭の品質を確保するために欠かせない、主に3つの大切な機能があります。

1. 孔壁(こうへき)の崩壊防止 安定液が孔壁に浸透することで、**「マッドケーキ」**と呼ばれる薄くて不透水性の膜を形成します。この膜と、安定液が地下水位よりも高く保たれることで生じる水圧(水頭圧)の力で、地中の圧力に負けずに孔壁をしっかりと支え、崩壊を防ぎます。特に地下水位が高い場所や、水を通しやすい砂層などの地盤で掘削する際には、この力が非常に重要となります。

2. スライム(掘削土砂)の沈降促進 掘削作業中には、土砂が安定液中に混ざり、泥水のような状態になります。この混ざった土砂を「スライム」と呼びます。もしこのスライムが杭の底に残ったり、コンクリートに混ざったりしてしまうと、杭の強度や支持性能に悪影響を及ぼしてしまいます。安定液には、このスライムを短時間で孔底に沈めることで、後のスライム処理を効率的に行うための力も備わっています。

3. コンクリートとの良好な置換性 杭の穴が掘り終わり、鉄筋かごがセットされたら、いよいよコンクリートを流し込みます。この時、安定液はコンクリートによって穴の外へ押し出されます。この際、安定液がコンクリートに巻き込まれることなく、スムーズに入れ替わることが杭の品質にとって非常に大切です。砂分を多く含んだり、比重が高すぎたり、粘性が高すぎたりする安定液は、この置換性を低下させ、結果的にコンクリートの品質不良を招く恐れがあります。

安定液の「魔法」を維持するための品質管理

安定液は非常にデリケートな液体で、掘削で発生する土砂や、コンクリートのセメント成分、地中の金属イオンなどによって**品質が変化(劣化)**してしまいます。この品質の劣化を防ぎ、3つの魔法の力を常に最適に保つためには、厳格な品質管理が欠かせません。

主に以下の項目を定期的に測定・管理します。

比重(ひじゅう): 液体の重さを表します。孔壁の安定性を保つためには、適切な比重が必要です。

粘性(ねんせい): 液体の粘り気を表します。スライムの沈降性や孔壁の保護に影響します。

砂分(さぶん): 安定液中に含まれる砂の割合です。砂分が多いとコンクリートの品質に悪影響が出やすいです。

pH(ピーエイチ): 液体の酸性・アルカリ性を示します。地盤の状況やセメント成分によって変化し、安定液の性能に影響を与えます。

ろ過水量、ケーキ厚: 孔壁に形成されるマッドケーキの性能に関わる指標です。

これらの管理値は、地盤の特性や工事の状況によって適切に設定されます。例えば、セメントや生石灰で改良された地盤では、安定液が劣化しやすいため、CMC系の安定液を採用したり、長尺ケーシングで安定液との接触を避けたりするなどの事前検討が重要になります。

「二元管理」と「良液置換」で品質を徹底!

場所打ち杭の施工では、安定液の管理を**「掘削中」「コンクリート打設直前」の2段階に分けて行う「二元管理」**が推奨されています。

特にコンクリート打設直前の管理では、杭の穴の底にたまったスライムや、安定液中に浮遊している砂分を徹底的に除去するために、**「良液置換(りょうえきちかん)」**という方法が原則とされています。これは、水中ポンプなどで砂分を多く含んだ安定液を吸い上げながら、同時に新しい良質な安定液を送り込むことで、孔内の安定液全体をきれいな状態に入れ替えるというものです。この良液置換によって、安定液中の砂分率を管理値(例えば3%以下)にすることで、杭頭不良などの不具合を予防し、コンクリートが良好に置換されることを確実にします。

安定液の管理がおろそかになると、孔壁の崩壊による杭径不足や、スライムの混入によるコンクリートの品質低下、ひいては建物の不同沈下などの重大な不具合につながる可能性があるため、サンヨーコーポレーションでは、この「魔法の液体」の品質管理に細心の注意を払っています。

次回は、いよいよ杭の材料となる**「コンクリート」**に焦点を当て、その流動性や打設方法など、品質を確保するための重要なポイントについて掘り下げていきます。どうぞお楽しみに!